不登校カウンセリング(実践例①)

この実例となっている相談内容に関しては、相談者から許可を頂いて一部の内容を変更して公開しています。なお、もう少し詳しい相談内容が書かれていましたが、事情により簡潔な文章にまとめ直しています。

■ 母親からの相談

中学二年生である娘のリコが二学期の途中で突然学校に行かなくなりました。登校しない理由について娘を問い詰めると、どうやら学校で友達と口喧嘩をしたことがきっかけで学校に行きたくなくなったようです。娘に友達と話し合って仲直りするように提案しましたが、娘は「話し合うことなんて何もない」、「もう放っておいてほしい」と言って部屋から出てこなくなりました。来年は受験も控えていますので、なんとか友達と仲直させて学校に行かせたいのです。もう不登校になって一週間が経ちましたが、毎朝、私が娘の部屋まで行って、学校へ行くように話しかけているのですが、娘は「うるさい!もう学校なんて行きたくない」と言うだけで部屋にこもってしまいます。
私は母親として、娘にどのように接すればいいのかわかりません。学校で口喧嘩をしたという友達と仲直りさせて、娘を学校に行かせるいい方法はないでしょうか?


この相談内容について表面上でわかることは、学校の友達と口喧嘩したことで娘のリコさんが不登校になってしまったということ、そのリコさんを登校復帰させるために、友達と仲直りさせようと提案して、なんとか学校に行かせようとする母親の動きです。しかし、娘のリコさんは友達と話し合うことを拒んで学校には行きたくないと言っています。最終的に母親は娘のリコさんとの接し方がわからなくなっている状態になっているというのが表面上でわかることでしょう。
しかし、この話を聴いたカウンセラーはあらゆる見立てをして、心理学的および専門的なことを頭の中で思い浮かべているのです。見立てを言い出すとキリがありませんので、基本的にどのようなことが考えているのか一部を紹介します。

① 不登校になる前の母親と娘さんの関係性はどうだったのか聴いてみる必要がある
② 娘さんと友達の口喧嘩とはどのようなものだったのか詳しい内容を聴いてみる必要がある
③ 娘さんの不登校の原因は他にも要因がある。つまり友達との口喧嘩は単なるきっかけにすぎなかった
④ 母親の頭の中では娘さんが不登校になった最大の原因は友達との口喧嘩であると思い込んでいる(原因を解決させると問題が解決すると思い込んでいる)
⑤ 母親の「娘を学校に行かせなければならない」という解決行動を支えている信念があり、その信念と行動を考え直す必要があるかもしれない
⑥ 母親が精神的に疲れてきている

まず不登校になる前の娘さんと母親の関係性はどうだったのか聴いてみたところ、コミュニケーションに何の問題もなかったようです。つまり、娘さんが心を閉ざしたのは不登校になってからと捉えることができます。次に娘さんが学校の友達と口喧嘩をした内容を詳しく聴きたいところではありますが、その前に母親の考え方や不登校に対する思いを聴いていくことを優先しました。母親から話を聴いてわかってきたことは、やはり娘さんが口喧嘩をした友達と仲直りをすれば、不登校問題が解決して登校復帰すると思い込んでいるようでした。そして母親の「娘をなんとか学校に行かさなければいけない」という焦りと信念を強く抱いていることから、娘さんとの接し方がわからなくなってしまい「どうすればいいのかわからない」と困惑しすぎて精神的に疲れてきていると感じました。

この場合、娘さんが不登校になった原因を追及する前に、母親の心のケアを行い不登校に対する現在の認知や信念を見直していきながら、視野を広げていけるように促しながら話を聴いていきました。なぜなら不登校訪問支援カウンセリングにおいて、まずは母親の協力が必要になるからです。考え方を見直すポイントは2つで、1つは「不登校になっている一番の原因が他にあるのではないか」、もう1つは「本当に学校に行かせなければならいのか?」という考え方です。このように母親が考え方を見直すことで、娘さんへの接し方が変わってきました。母親の心の視野が広がったところで、ようやく母親と話し合いながら協力していただけることになったのです。

そしていよいよ娘さんに話しかけることになりましたが、母親には席を外してもらいました。私は男性のカウンセラーなので、いくら中学二年生とはいっても娘さんの部屋にいきなり入るようなことは避けて、ドアをノックして「こんにちは、カウンセラーの〇〇と申します」と挨拶しました。娘さんは小声で「はい」と返事をしましたので、少しは話ができそうだと感じました。私は娘さんに「リコさんって呼んでいいかな?」と質問してみると、娘さんは「はい」と返事をしました。そこで私は「リコさんは将来やってみたいという夢はある?」と質問してみました。すると娘さんは「もうわたしの将来なんてどうでもいいのです」と答えました。その答えを聞いた私は「そうなんだ。リコさんがそう思うなら仕方がないね」と言いました。ここで「どうして、どうでもいいと思ったの?」などと突っ込んだ質問をすると、余計に心を閉ざしてしまう可能性があるので、あえてその質問はしなかったのです。そして私は「リコさん、これは私の意見だけど、学校なんて行きたくなければ行かなくていいと思うよ。今日はそれだけを伝えておきたかったんだよ」と言いました。すると娘さんが「でも、お母さんは学校に行きなさいとうるさく言います」と言いました。私は「お母さんと話をして、もう無理に学校に行かせようとしないように言っておいたから大丈夫だよ」と言いました。それを聞いた娘さんは「そうですか。わかりました」とだけ答えました。その日は、それで娘さんとの話は終わりました。

それから何度かご家庭に訪問して娘さんの部屋前からドア越しで話しかけていくようにしました。最初のうちは7割程度は私自身の話をしていきました。私も不登校の経験があったので、そういった話をして自己開示をしていったわけです。娘さんの様子を伺っていると徐々に「へえ」、「そうなんだ」という相槌から「〇〇さんも辛い思いをされてきたのですね」などと答えてくれるようになってきました。私はこのタイミングだと思って「リコちゃんも辛い思いをしてるんじゃないの?」と聞いてみました。すると娘さんは「わたしは自分に自信がないなくて、友達にあんたなんか何をしても無理だと言われたので、その通りだと思っているだけです」と答えました。ついに不登校になっている核心的な原因を掴めてきたように感じました。ここで「そんなことないと思うよ」などと言ってしまうと反抗的になってしまうと思ったので、私は「リコちゃんは自分に自信がなくて、そこを友達に何をしても無理だって言われたんだね」とオウム返しをしてみました。すると娘さんはどうやら泣き出したようで「わたし、これからどう生きていけばいいのかわかりません」と言いました。私はそんな娘さんに対して「一人でそんな悩みを抱えてきたんだね。よくがんばったって褒めてあげたいよ。この先のことは協力するから一緒に考えていかないかな?」と提案しました。すると娘さんは「〇〇さんが一緒に考えてくれるのですか?」と聞かれたので「できる限りの協力をしていきたいと思ってるし、私はリコちゃんの味方だよ」と言った。すると部屋のドアが開いて涙を流しながら娘さんが部屋から出てきました。

その後、娘さんと母親の三人で今後の方向性について話し合って、娘さんは美容師を目指すということになりました。そして、娘さんは口喧嘩をした学校の友達と電話で話をして仲直りをして、最終的に登校復帰することになりました。

今回の不登校問題に関して細かい出来事については割愛させていただいていますが、娘さんの不登校の要因は自信のなさと、口喧嘩をした友達からさらに自信を消失されるような発言をされたことによって、完全に自信消失してしまったことが原因だったとわけです。やはり口喧嘩はただのきっかけにすぎなかったと考えられます。これは不登校問題の相談から解決に向けてのプロセスを簡潔にしたものでありますが、カウンセラーはあらゆることを見た立てながら、状況に応じて言葉を選んでコミュニケーションをとっていかなければならないということを常に意識しておかなければならないのです。

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