不登校問題を抱えている場合、保護者の方があらゆる取り組みを行っているかと思います。問題解決に向けて行動していく姿勢は大切なことなのですが、無理強いして不登校の原因を聞き出そうとしたり、お子さんの心をこじ開けるといった不適切な行動をしてしまうと、状況が悪化してしまう恐れがあります。
そのような不適切な行動をとってしまう理由として、保護者の方が早く登校復帰させたいという焦りからイライラしてしまっているなど、心が不安定な状態に陥っている可能性が考えられます。その場合、まずは保護者の方が心を安定させないといけません。
ここでは不登校問題に取り組む際に起こりやすい不適切な行動や、陥りやすいケースの一部を紹介していきます。
- 家族の孤立化
- 不登校問題を抱える家族は「誰に相談すればわからない」ということから、悩みを家庭内で抱え込んでしまい孤立してしまう傾向があります。家族の孤立化は、どんどん問題が深刻化してしまい、保護者の方まで心の病にかかってしまう可能性があります。家族の孤立化を防ぐためにも、専門家の支援を受けながら問題解決に向けて取り組んでいくのがいいでしょう。
- 両親の事情聴取
- 不登校になったお子さんに対して、保護者の方がしつこく「どうして学校に行きたくないの?」と理由を問いただしてしまう傾向があります。しかし「なぜ?」「どうして?」といった質問攻めをしてしまうと、お子さんにとって事情聴取されている心境になり、逆に心を閉ざしてしまう可能性があります。早く理由を聞き出したいという気持ちはわかりますが、お子さんにも理由を話すための心の準備や勇気が必要なのです。不登校の理由を無理強いして聞き出そうとするのではなく、お子さんが心を開くまで見守っておくようにするのがいいでしょう。
- 原因追及ばかりに気をとられてしまう
- 多くの人は何か問題が起こると、その原因を追及しようと行動してしまいます。不登校問題が発生した場合も同じく、保護者の方はお子さんが不登校になった原因を追及しようとしてしまいます。不登校問題はすぐに原因がわかることもありますが、全くわからないこともあります。もちろん、不登校になった原因を追及していくことも必要なのですが、ここで勘違いしてはならないのが、原因を解明しても不登校問題の解決にはなっていないということです。たとえば、風邪をひいた場合、まずは病院にいったり、薬を飲んで寝るという風邪を治す行動にでます。風邪をひいてしまった原因を追究したとしても風邪は治りません。
また、不登校問題の原因はさまざまな要因が複雑に絡み合っていますので、一つの原因を取り除いたからといって問題が解決するとは限りません。ですから原因追及ばかりに気を取られないように心がけておくのがいいでしょう。
- 子どもの退行(防衛機制)
- 防衛機制とは不安やストレスを感じたときに、心の安定をはかるための無意識的な働きのことです。たとえば、自分の気持ちに素直になれない子どもが好きな異性にわざと意地悪なことをする行動も防衛機制といえます。
不登校のお子さんの中にはこの防衛機制の一つである退行を起こしているケースがあります。退行とは受け入れがたい状況や危機的な状況に晒されたとき、過去の発達段階に戻って欲求を満たそうとする心の動きで「赤ちゃん返り」や「幼児もどり」などとも呼ばれています。お子さんが学校に行けなくなったことで悩み苦しんでいるときに、突然親に甘えはじめたり、幼稚なことをして困らせたりするなどといった行動を起こして、親が自分のことをどう思っているのか確かめることによって心の安定をはかろうとしているのです。退行を起こしているお子さんは反抗的になっているのではなく、親を求めているということを理解する必要があります。そして、できる限り子どもの要求に応じてあげること、子どもの意見や発言を否定せずに話を聴いてあげることを心がけていきましょう。退行は子どもが十分満足して、心が安定するとなくなってきます。
- 家族内でゲームが展開される
- エリック・バーンが考案した交流分析におけるゲームとは、相手を自分の思い通りにコントロールしようとすることで始まるコミュニケーションのことです。このゲームにはいろいろありますが、たとえば、相手に解決策を求めて相談しながらも、相手が解決策を提案すると相談者がその一つ一つに反論していき、ついに相手がうんざりして無気力になってしまうといったケースです。
S.カープマンは、このようなゲームが行われるコミュニケーションにおいて無意識的に役割的行動を演じる形式になりやすいと気づいたことによりドラマ三角形という図式を考案しました。ドラマ三角形とはゲームが行われる際、迫害者、犠牲者、救済者の三つのうち一つの役割を演じ、この役割を入れ替えながらゲームが進行されていくということです。不登校のお子さんを持つ家庭内で起こりやすいドラマ三角形の例として、次のような例が考えられます。
母親「また学校をサボるなんて何考えてるの?ちゃんと学校に行かないとダメよ」
子ども「僕、もう学校に行きたくないんだ・・・」
父親「頭ごなしに怒らないで、少しは学校に行きたくない気持ちも尊重してあげるのがいいんじゃないか」
母親「お父さんがそんなに甘やかすから、この子が怠けるんじゃないの!」
父親「俺が悪いっていうのか!子どもの気持ちを考えないお前(母親)に問題があるんじゃないか」
子ども「お父さん、怒らないで!」
上記の例で、それぞれが迫害者、犠牲者、救済者になり、それまで犠牲者であった人が次の瞬間には迫害者になるなど、役割の入れ替えが起こっています。このような関係が一度作られると、役割が入れ替わりながらゲームは延々と続いていき、最終的には全員が不快な感情になります。このような関係になった場合は役割を演じていることに気づいて早くドラマ三角形から抜け出すようにしましょう。
- 感情の不一致による状況悪化
- 不登校になっているお子さんが「学校に行くのが辛い」と発言した時、保護者の方は「学校で何か嫌なことでもあったの?」とそのお子さんに質問するのはごく自然な会話の流れのようにみえます。しかし、この段階で注意しなければならないのは、このお子さんが発言した「辛い」という意味や感情を深く理解しておかないといけません。ここで「辛い」というのは、あなたにとってどのような意味や感情なのか考えてみてください。一言で「辛い」といっても、その意味や感情は人によって違ってきます。ところが、今回の「学校へ行くのが辛い」と発言したお子さんの「辛い」という意味や感情を、保護者の方が自分なりの解釈で捉えて共感しているような発言をしてしまうと、そのお子さんは心の中で「わかってくれていない」と思って心を閉ざしてしまう可能性があります。このようなことを避けるには「辛い」という漠然とした意味を具体化させていく質問をしていかなければいけません。今回の場合だと「辛いってどういう気持ちになっているの?」「どういう風に辛いの?」などと詳しく聞いていくことでこのお子さんにとっての「辛い」という意味や感情を深く理解していくことができます。