お子さんが発達障害を抱えている場合、保護者の方があらゆる取り組みを行っているかと思います。よりよい人間関係の構築、学校生活や社会生活に向けて行動していく姿勢は大切なことです。しかし、正しい知識や技術に基づいて行動しないと、症状が悪化してしまう恐れがあります。
ここでは発達障害のお子さんに取り組む際に起こりやすい不適切な行動や、陥りやすいケースの一部を紹介していきます。

家族の無理解
発達障害は見た目ではわかりにくいとされています。ご家族全員が発達障害に関してご理解されているのであれば問題はありませんが、実際には父親や兄弟姉妹が理解していないなどのケースが多くみられます。発達障害の問題行動に対して「勉強ができないのは努力が足りていない」、「こんなこと練習すれば誰でもできる」、「(部屋が散らかっているなど)だらしがない」などと叱責してしまうと、発達障害のお子さんは自己肯定感を失い、心理的に不安定な状態になります。そうなると、テストの点数が悪い→「努力が足りない」と叱る→心理的不安定→さらにテストの点数が下がるといった無限ループ状態に陥って症状が悪化してしまう可能性があります。また、自己肯定感を失っていくことで抑うつ、適応障害、睡眠障害などの二次障害を引き起こすことがあります。
ストレスが溜まる
脳内の神経物質の一つであるセロトニンは精神を安定させる働きがあります。発達障害の人は先天的にセロトニンの分泌量が少ないという研究結果が出ており、セロトニンが少ないことによりストレスを感じやすいと言われています。日常生活において何気ない出来事であっても発達障害の人にとって強いストレスを抱えてしまい、イライラしたり怒りやすくなることがあります。周囲からすれば”このようなことで怒るなんて短気すぎる”などと捉えてしまいます。それにより発達障害の人に対して「そんなことで怒らないの」と注意してしまうと、余計にイライラさせてしまうことがあります。また、LD(自閉スペクトラム障害)の人に多く見られる視覚過敏、聴覚過敏といった感覚過敏がある場合、日常生活において強いストレスを抱えてしまうことがあります。
負のループ状態に陥る
発達障害の人が遅刻した、話をしていた相手を怒らせたなどの問題行動を起こすことで、無理解な周囲の人から叱責されることがよくあります。発達障害の人にとってこれらは悪気があってしている行動ではないのですが、周囲に叱責される→言い分を上手く表現できない→問題行動を起こす→周囲に理解されない→自己肯定感の低下→周囲に叱責されるといった負のループ状態に陥ります。この負のループ状態に陥ると症状は悪化したり、引きこもりや不登校、さらには二次障害を引き起こすことに繋がります。
睡眠障害を起こす
ASD(自閉症スペクトラム障害)やADHD(注意欠如多動症)の人が二次障害として起こしやすいとされているのが睡眠障害です。特にADHDの人が発症しやすいといわれています。その詳しいメカニズムは割愛しますが、簡単に例えると脳の機能障害によって「入眠する」、「起床する」という切り替えスイッチが非常に遅いのです。つまり入眠するというスイッチが遅いため、なかなか寝つけず、起床するというスイッチが遅いため、起床するまで時間がかかってしまうということです。また、ADHDの人は脳内の神経伝達物質であるセロトニンを原料としてつくられるメラトニン(体内時計をコントロールするホルモン)に偏りがでてしまうため概日リズム睡眠障害に陥りやすいと考えられています。夜になっても落ち着かずになかなか眠れない入眠困難、睡眠中に何度も目が覚めてしまって眠りの浅い中途覚醒、過眠の傾向があり興味のないことで日中に眠気をもたらす、入眠困難と起床困難によって睡眠リズムがずれてしまったり昼夜逆転になってしまう概日リズム睡眠障害などが現れることがあります。特に概日リズム睡眠障害を起こしてしまうと、日常生活に支障をきたしてしまい、結果的に不登校になることがあります。発達障害による睡眠障害は通常の睡眠障害とは原因そのものが異なるため、治療法も変わってきます。単なる睡眠障害の治療を受けているにも関わらず、なかなか改善しない場合は発達障害や他の病気を疑うのもいいでしょう。
欠点ばかりに注目、補ってしまう
発達障害は脳機能の障害であるということから、どうしても欠点ばかりに注目してしまいがちになります。ところが、発達障害は特性と捉えることもできるのです。
LD(学習障害)に多く見られる読み書き障害の人は、文字をロゴのようなデザインとして捉える傾向があり、鉛筆ではなく筆で書くとうまく書ける人が多いといわれています。筆は鉛筆と違ってハネ、ハライなどの動きがあるため記憶しやすいようで、筆を使った訓練をして有名な書道家になった人も多くいます。
ADHD(注意欠如多動症)は別名で天才病ともいわれています。ADHDの人は個性的で創造力豊かである、自分の興味があることに関しては人並外れた集中力を発揮させる、IQが平均値より高いといった特徴があることから、生まれつき備わった優れた才能を持っている、つまり天才だといわれているのです。
ASD(自閉症スペクトラム障害)の人は独特のこだわった行動や振る舞いが見られることがあり、五感などの感覚が人並み以上に優れているといわれています。また、ルール化された作業を単独でコツコツ行うことが得意だという人も多くいるようです。
このように発達障害の欠点ばかりに注目して、それを訓練で補うことばかり考えるのではなく、それぞれの特性を活かしていくことも重要なのです。
お子さん質問に対する対応
脳科学者や発達心理学者などの専門家たちは「教えるよりも、子どもが興味あることを自由に楽しむ環境を作ってあげることが大切である」と述べています。例えば、お子さんが雨の降る理由を疑問に思ったとします。それに対してご両親は「雨を降らせる雲が動いてやってくるからだよ」と答えてしまうことが多いのですが、お子さんにとってそれ以上追及することがなく疑問は終わってしまいます。それは、お子さんの考える重要な機会を奪っていることになっているのです。その質問に対して「どうしてだろうね?どうしてだと思う?」と返すと、お子さんは脳をフル回転しながら考えて自分なりの答えを導き出すでしょう。そのときに脳に与える刺激は、答えを聞いたときより何倍もの刺激になります。そしてお子さんがどのような答えを述べてきても「なるほど、よく考えたね!」と受け入れてあげることで、お子さんは次も考えてみようと思います。特に発達障害のお子さんの場合はあらゆる発想をするので違った答えを述べるかもしれませんが、そこで「それは違うよ」と否定してしまうと自己否定感に陥ります。
発達障害のお子さんが将来必要となる自分で考える力を鍛えるためには、お子さんの質問に対して安易に教えたり、答えを言わないことが重要なのです。
学力の心配をしすぎる
発達障害のお子さんが不登校になったり、特にLD(学習障害)を持つお子さんの学力が伸びないなど、学力の心配ばかりされるご両親も多くいるようです。たしかに他の同級生と比べて学力が伸びないことを心配されるお気持ちはよくわかりますが、お子さんの幸せを決めるのは学力だけではありません。人間の総合能力は認知能力(IQ、学力、記憶力)と非認知能力(社交性、協調性、思いやり、自尊心、信頼など)の二種類に分けられますが、認知能力が高いことが幸せな人生をおくるという因果関係は全くみられませんでした。一方、非認知能力が高いと判断された子どもは、幸せな人生をおくっていることが証明されています。特にコミュニケーション能力が高い子どもは、社会的にも成功しやすく、学力も高まったという結果がでています。コミュニケーション能力を高めれば、いじめ問題を起こすこともなくなり、先生やご両親との関係性も良くなります。関係性がよくなるということは、何事にも積極的になって周囲から適切なフォローを受けることが出来るようになるのです。その結果、学力が伸びる、勉強ができるようになるということです。
学力の心配ばかりして、お子さんにたくさん勉強させることは悪いとはいいませんが、コミュニケーション能力を高めるといった別の視点から学力を伸ばす方法もあるということです。